歌川広重「名所江戸百景」

歌川広重(1797-1858)晩年の大作「名所江戸百景(めいしょえどひゃっけい)」。抒情性豊かな風景画、詩情溢れる花鳥画などを描いてきた浮世絵師・広重が最後にたどり着いたのは、大胆で奇抜な構図が特徴の江戸名所絵の一大連作でした。モネやゴッホといった印象派の巨匠たちが模写したことでも知られ、世界的に人気です。
シリーズは春夏秋冬の4部に分けられ、四季折々の江戸の素顔を描き出した一連の作品には、生まれ育った江戸の町に対する広重の深い愛着が感じられます。それと同時に、風景画ではあまり用いられない縦長の画面を採用し、高い視点から見下ろす俯瞰図や、前景に印象的な素材を大きく描く遠近法、様々な摺の技術を駆使した表現方法など、晩年の作品にもかかわらず広重の新しい試みが随所に見られる意欲作でもあります。
安政3年(1856)2月から同5年(1858)10月にかけて制作され、当時のベストセラーとなったこのシリーズ。日頃何気なく目にしている風景が、広重の手によってまるで新しい景色のように生まれ変わるという驚きこそが、江戸の人々を魅了したのではないでしょうか。