葛飾北斎「諸国滝廻り」

葛飾北斎(1760-1849)による「諸国滝廻り」は、代表作「富嶽三十六景」が出版された後、天保4年(1833)頃に同じ版元・西村屋与八(永寿堂)から出版されたシリーズです。全8図からなる本シリーズは、江戸近郊にとどまらず、日光、木曽の山奥や東海道筋の鈴鹿峠、吉野など各地の名瀑を題材にしたものです。また阿弥陀や観音が祀られている滝、山岳信仰にゆかりの深い滝など、人々の信仰の対象となっている滝が選ばれています。
ただし「諸国」とありますが、その土地の景観を描いたというよりは、むしろ滝を通して水の表現に挑んだシリーズと言えます。普通ではとらえがたい水という対象物を自由自在に描き分ける北斎独自のデザイン力がいかんなく発揮されているところが見どころでしょう。これらの水の表現は、北斎がそれ以前に手がけた『北斎漫画』や『新形小紋帳』といったデザインの見本帳にその端緒を見ることができます。何年もかけて水という対象物を研究してきた北斎の集大成の一つが、この「諸国滝廻り」なのです。